(平成16年日本綜合医学会「健康小論文」優秀賞受賞論文)     

          食養について ―癒しの(病人のいない)社会を目指して―
                                                          大杉幸毅
食養学院受講の動機
 食の重要性に気づいたのは、今から二十数年前の鍼灸学校在学中であった。ある教師の講義で食事療法の指導により、癌などの難病を治療していることを知り、驚いたものであった。「食事を変えることで癌が治る」これは凄いことだと思った。その論拠は「千島学説」の理論に基づいていた。私はその頃、「血液循環療法」を学ぶため師匠のところに入門していた。師匠も癌など難症の患者の治療に実績を上げていた。食事指導も行っていたがそれほど厳密なものではなく、癌患者では、青汁を推奨し、食べてはいけないものなどを指導していたようであった。
 千島学説では、「食べ物が血液となり、細胞となる」と教える。文字通り「血となり肉となる」のである。講義を聴いてから食の重要性に気付き、もっと食事療法について深く勉強したいと思い、それから食養関係の本を読んでは独学で少しずつ勉強していった。その頃は、血液循環療法を修得することが主力であった。私の師匠の症例を中心に循環療法の入門書を出版したのが、日本みどり会会長の故馬渕通夫先生の御目に留まり、これを機会に、みどり会で馬渕先生が推奨されていた食事療法も勉強させて頂いた。 
 血液循環療法は、手技で患部及び全身の血液循環を促進し、瘀血(末梢循環障害)を解消する治療法である。しかし、病気が良くなってもまた瘀血を作る食事や生活をしていたのでは、元の木阿弥である。根本的に瘀血を解消するには、血液の素材を作る食を正すことが重要である。しかし、食事療法だけでは効果が現れるまで時間が掛かる。手技の血液循環療法は食事療法だけに比べて効果が早い。やはり、血液循環療法と食事療法を組み合わせることがベストである。さらに健康の基本は「気、血、動、息、想」の調和が大切であるので、ストレス解消法、日常の適度の運動、呼吸法などの生活指導が必要である。この二十数年間、そのように考え独学で勉強しながら臨床に当たってきた。4年前、血液循環療法を指導する学院を開校したときは、食養講座をカリキュラムに開設し、食養指導に実績のある先生を招聘し講義をしてもらっている。
半断食の実行
 しかし、自分自身は食の知識はあっても、今現在病気ではないので食事療法は実行したことは無かった。患者さんに指導するからには、自己の体験が必要である。そう考え一度挑戦してみたいと思っていたとき、チャンスが訪れた。
平成14年、東京で甲田光雄会長のご講演を拝聴し、「少食は世界を救う」「半断食健康法」などを読み、思い切って朝食抜き一日二食の半断食を実行してみることにした。
 今まで一日の食事は、「朝食は金、昼食は銀、夕食は銅」といわれ、一日の活動の始まりの食事は一番大切だ、という考え方を聞いていたので、朝食をたっぷりと摂っていた。それをいきなり抜いたものだから、お昼まで我慢するのが大変で、柿の葉茶をがぶがぶ飲んでごまかしたが、お昼近くになると血糖値が下がってきた感じがして、脱力感と睡魔が襲ってきた。そんなときは、チューインガムを噛んだ。ガムのほのかな糖分だけで空腹感がおさまり、血糖値が回復して元気になるようだった。そんなことをしながら、一週間、二週間と過ぎていき次第に空腹感にも慣れてきた。一日二食の場合は、中身の濃いバランスの取れた食事をしなければいけない。今まで主食は白米であったが、次第に胚芽米から玄米に変えていった。副食は、野菜、海藻類、小魚中心に変えていった。元来好きだった肉類はなるべく食べないようにしていった。一年経って、肥満傾向だった体重は4キログラム減少した。血圧が120台/80台だったのが、コンスタントに110台/70台に下がった。更に厳密な食養を1ヶ月実行したら、体重が2キログラム減少し、BMI指数が標準値になった。
食養学院に入学
 そのような時に、日本綜合医学会で食養学院の講座の募集があった。講師陣は当代一流の先生方で、大学以上の布陣、さすが綜合医学会である。体系的に勉強できるいいチャンスとばかりに、すぐに申し込んだ。教材がまとめて送られてくる。普段の忙しい仕事の合間に勉強するのは、なかなか大変であったが、多くのことを学ばせて頂いた。昨年、初級課程を修了し、現在中級課程で勉強中である。
病は口から入り、禍は口から出る
 栄養状態が悪い時代は、結核などの感染症が多かった。しかし、高度経済成長を遂げた現在では、栄養過多による疾患が蔓延するようになった。即ち、現在日本人の死亡率のベストスリーは、癌、虚血性心疾患、脳血管疾患である。また、糖尿病、非アルコール性脂肪性肝炎、痛風などの西欧型の疾患が増加している。これらは、戦後の食生活及びライフスタイルの変化に起因している。日本人が西欧文明の波にさらされたのは幕末であり、私たちの先輩は近代化(西欧化)の道を選んだ。食生活やライフスタイルの変化が全国民にまで及んだのは、太平洋戦争後の進駐軍統治下からである。学校給食制度、食生活改善運動などすんなり受け入れられた背景は、実は明治維新から始まっていた。日本人は西洋に対するコンプレックスや憧れがあった。政治、経済、文化あらゆる面で欧米化が進み、それが進歩的であるとされた。医療の分野では、江戸時代まで伝わっていた伝統的な漢方、和方は切り捨てられ、ドイツ医学が導入された。栄養学はカロリー中心の西洋栄養学である。戦後はマッカーサーにより日本の民間療法が禁止された。現在の日本は核家族化が進み、先祖から続いてきた伝統的な食事や民間療法は消えつつあるのが現状である。高度経済成長を果たし、外見上は豊かに見える日本であるが、現実は実にお寒い状況である。凶悪犯罪の増加、犯罪の低年齢化、不登校、子供の体力低下、肥満児などは食事の偏りや貧食に起因している。
将来に向けての展望―21世紀は予防医学の時代
癒しの社会―病人のいない社会を目指して
1)健康管理は自己責任
 癌をはじめとする生活習慣病は、病気に対する無知から罹患する。「運悪く癌になる」のではない。原因があって結果がある。疾患の原因を作っているのは自分自身である。生活習慣病は予防することが可能である。予防のための方法は随分分ってきた。自分の健康は、自分で責任を持って管理しなければならない。もし病気になったら、過去の生活を反省し、病院や医者に頼らないで自分で治す努力をする。そのための情報提供は、綜合医学会が中心になってやっていく。医療機関は、薬漬け、検査漬けの医療を改め、免疫力、自然治癒力を賦活する方法を取り入れなければならない。さらに食養学院の卒業生、あるいは会員一人一人が、家庭、職場、学校、サークルなどさまざまな出会いの場を通じて周囲の人たちに教えていき、草の根的な運動として広げていくことである。この知識を普及し病人を少なくすることから始めなければならない。
2)瘀血の予防と解消
 癌をはじめ生活習慣病や老化の予防は、瘀血の予防と解消が一番である。そのためには、血液を健全に保つことと、血液の通り道である血管を若々しく保つことが大切である。血液を構成する要素は、血球(血液細胞)と血液の性状がある。血球を健全に保つには、その素材である食事が大切である。次に血液細胞、とりわけ免疫細胞は、心の状態が反映するので、普段の生活の中での心の持ち方(想念)が大事である。血液の性状をサラサラに保つには、少食、質の良いミネラル、ビタミン、酵素など多く含んだバランスの取れた食事、十分に水分を補給することが大切である。
次に、血管を若々しく柔軟に保つこと、特に微小循環を健全に保ち隅々の細胞にまで血液をいきわたらせることが大切である。とりわけ末梢への酸素の十分な供給と慢性炎症の解消が特に癌の予防では重要である。その方法として手技による血液循環療法(健康法)はきわめて有効である。また、自己の体力に合わせた無理のない有酸素運動を継続することが、血液循環を健全に保ち血管の柔軟性を保つ上で大切である。
3)食と心の問題―命を慈しむこころ
甲田会長の「少食、肉食半減運動」をもっと広く普及することである。これは自分の健康に良いばかりでなく、無駄な殺生をしないことになる。全ての生命はつながっている。人間だけが繁栄するのではなく、地球上の全ての生命が共存共栄できる文明が必要である。現代文明はすでに行き詰まっている。このまま行けば、地球環境はさらに悪化し、食糧生産は低下し、人類自らの生存も危うくなるであろう。また、地球上で食物連鎖の頂点に立つ我々が生きていくためには、必ず他の命を犠牲にしなければならないという宿命にある。この罪を出来るだけ少なくするには、菜食主義(ベジタリアン)で行くしかない。仏教により四足を食することを禁じられていたわが国では、玄米菜食に戻しやすい環境にある。現在、アメリカでも玄米食が広まっているようだ。動物の命を犠牲にして食することは、生命を軽くみることであり、それはいとも簡単に殺人を犯したり、戦争をしたりする感覚につながって行く。普段は玄米菜食で少食にして、月に一度くらい断食をすると、食べ物の有難みが身に染みて判り、そうすれば、私たちの命を支えてくれている犠牲になった命に感謝する心が自然に湧き出てくるだろう。そうすれば食べ物を無駄にすることも無くなり、また自分の命も他人の命も家畜の命も虫けらの命も慈しむ気持ちが育ってくるだろう。みんながそのような気持ちになれば、簡単に殺人を犯したり、戦争をしたりしなくなるであろう。そうなれば、皆が「思いやり」と「いたわり」の気持ちになり、もっと優しい「癒しの社会」になっていくであろう。食が乱れれば、心が乱れ、体が乱れる。食に慎み深ければ、運勢は開ける。私は、循環療法の普及を通して、そのような「癒しの社会」目指して活動していきたいと考えている。



長寿食


 

 

長寿食

かつて長寿日本一だった山梨県ゆずりはら村の晴れの日のご馳走

      (上野原市長寿館)



(H18年綜合医学論文)
                    日本綜合医学会の進むべき道
                       ―和方の復活―
                                                         大杉幸毅
日本医学とは?
それぞれの民族や国にはそれぞれの固有の文化があり、日本には日本の伝統文化がある。医学や医療においても同じである。それは必要性があって生まれ育っていったものであり、生まれるための土壌や背景がある。中国には中医があり、インドにはアーユルベーダーがある。では、日本には日本医学があるのだろうか?
現在の日本の医療制度は、西洋に起源を発した現代医学といわれるものが主流である。西洋医学は、ヨーロッパで発生し、アメリカにわたり現代医学として発展を遂げた。日本では奈良時代に中国より導入した漢方(中国医学)があり、その後、日本人の病気にあった和方(日本医学)として独自の発展を遂げた。日本という国は、もともと「大八州(おおやしま)豊葦原の瑞穂の国」といわれ、海で四囲まれた島国で、水も土壌も豊かで生産力があり、江戸時代の初めは世界人口の6パーセントである3千万人を自給率100%で養っていたといわれている。秦の始皇帝が不老長寿の秘薬を求めて徐福を使わしたとされる蓬莱の国の伝説があるくらいで、もともと病気は少なかったといわれている。ペストやコレラなどの伝染病の流行は、西洋人が持ち込む以前はなかったといわれている。
近代化で断絶
明治政府は、西欧からの植民地化の阻止、不平等条約の撤廃、西欧列強に追いつくため、すべての分野で政府が主導で西欧化していった。いわゆる文明開化である。医療の分野においても、和方をやめドイツ医学を導入した。ここで日本の伝統医療(和方)は、制度として断ち切られた。同時にドイツ栄養学が導入され、西洋料理の普及とともに肉食や酪農乳製品がひろまっていった。富国強兵、殖産興業を強烈に推し進めた結果、安い労働力が都市部に流入し、農村は疲弊し、都市化とともに感染症が流行し、上流階級で成人病が増加した。つまり西欧化した結果、西欧型の病気が蔓延し、西欧医学で対応してきたのである。
アメリカンナイズされた文化
日本はさらに列強への道を突き進み、日清、日露戦争、第1世界大戦を経て,ついに世界を相手に第2次世界大戦に突入し、敗戦後アメリカ統治となる。第2次大戦後の日本は、アメリカ文化に植民地化される。これまで細々と民間療法として続いてきた和方は、マッカーサーにより断ち切られようとされた。戦後の食生活改善運動と学校給食制度は、肉食、パン食、牛乳、チーズ、バターなどの普及を日本人の根底にまで広げ、その結果、従来日本にあまり見られなかった心臓病、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症、大腸癌、糖尿病、痛風、脂肪肝、骨粗しょう症、リウマチなどの自己免疫疾患、アトピー性疾患、花粉症など病気が増加していくことになった。穀物(米、雑穀)、野菜中心の長い歴史の中で培われてきた日本人の体質には、西欧で生まれたバター、チーズ、牛乳などの動物性蛋白、脂肪食は合わなかったのである。
食文化の破壊
日本の伝統文化といえば、能、狂言、歌舞伎、茶の湯、生け花、陶芸、和歌、俳句などなど芸術分野の文化があるが、これらは国家である程度保護されている。しかし、日本民族の根底である食文化、医療は国家によりあるいは他国の強権により破壊された。日本の食文化の伝統的家庭料理、郷土料理は、若い世代には受け継がれることなく家庭の食卓から消え去ろうとしている。
日本の気候風土と日本人の体質
 日本は四季の移り変わりがはっきりとしたアジアモンスーン気候帯に属する。この国では気圧、気温、湿度の変動が激しく、一年を通してめまぐるしく変化する。私たちの体も四季の変化に合せ適応しようとする。ところがうまく適応できない体質の人がいる。低気圧が近づいてくると、頭痛がしたり、体がだるく感じたり、関節の痛みが出たり、敏感に反応する。「明日は雨が降るよ」と、天気予報よりよく当たる。これを西洋医学では、自律神経失調症という。季節の変わり目にも敏感である。秋口、春先など気圧の変動が激しい季節、秋の長雨や梅雨時、具合が悪くなる。秋の高気圧が日本列島を覆い気候が安定してくると次第に体も秋型から冬型になってきて調子が戻る。昔から「柿が赤くなると、医者が青くなる」といわれているように、病人が少なくなる。一病を持つ人も同じである。朝鮮半島に低気圧が近づくと、病状が悪化する。喘息、慢性関節リウマチなどの慢性病である。では自律神経失調症はなぜ起こるのか?西洋医学に答えはないし、根本的な治療法(薬)はない。このような病態は、和方として伝わってきた瘀血の概念を導入すると理解できる。
西洋医学の生まれた背景
西欧の気候風土は日本とは異なり、気候変動は少なく安定している。したがって、アジアモンスーン気候に比べ気候変動からの影響を受けないのである。また、変動が少なく規則的な気候条件下では、農業や畜産業は計画的に収穫できる。そこから自然は人の手により制御しやすいという考えが生まれた。同じ条件であれば、同じ結果が出るといった普遍性(真理)、これが西洋の自然科学思想である。そのような背景に生まれたのが近代医学である。デカルトにより機械論的医学が生まれた。西洋の近代医学の出発は、解剖学であり、分析的、実証的である。病理解剖が盛んに行われ、「病気をみよ、病人をみるな」という言葉が流行した。また、ヨーロッパでは古代から度々ペストやハンセン病などの感染症が猛威をふるい、大流行し人々は悩まされ続けた。戦争による軍隊の大移動、大航海時代による異民族との接触、都市化による環境の非衛生化、産業革命による苛酷な労働などである。そのような背景から生まれたのが、衛生学と細菌学であり、「特定病因説」である。すなわち、ある特定の病気には必ず特定の原因(細菌)がある。この原因を解消すれば病気は治るというものである。このような気候風土の違い、人と自然とのかかわり方の違いなどの歴史的背景の違いにより、西洋近代医学には、瘀血という概念は生まれなかった。
瘀血の概念
 瘀血は末梢循環障害である。つまり微小循環(毛細血管網)の血流が悪いのである。細胞は赤血球により酸素の供給を受けエネルギーの元であるATP (アデノシン三燐酸)を産生(好気的解糖)しているが、末梢循環障害があると酸欠状態となり嫌気的解糖をせざるを得なくなる。嫌気的解糖は効率が悪いばかりか、中間代謝産物の乳酸を作る。乳酸がたまってくると機能低下を起こし、組織は硬化(硬結)する。これがシコリ(痼、凝)である。このような瘀血体質の人は、普段から血液循環が悪く、機能低下を起こしている。それが低気圧の来襲、気温の急激な変化、湿度の上昇により、循環が悪くなって酸素の供給が悪くなり、体調を崩しやすいのである。瘀血体質は体のあちこちにシコリを作りやすい。例えば肩こりがそうである。「肩こり」という言葉は、日本では生活の中に日常茶飯に使われ、お馴染みのものであるが、例えば英語には独立した言葉として「肩こり」はない。西洋人に肩こりがないわけではないだろうが、言葉としてないのはそれだけ一般的ではなく、日本人ほど瘀血体質はないと思われる。それだけ我々に馴染みのあるシコリも、現代医学ではすっぽりと抜け落ちている。
瘀血体質が生活習慣病の背景になる
 瘀血は、婦人科障害のみならず癌、生活習慣病、アトピー性疾患、自己免疫疾患など現代医学で難症とされている慢性病の背景になる。瘀血は、血液の悪化と循環障害である。血液の悪化とは、赤血球の連鎖、変質(ドロドロ血液)、免疫細胞の変化、凝固線溶系の異常(ネバネバ血液)などであり、循環障害は血管も含めた筋肉や内臓の硬化である。更に循環障害があると、体に取り込まれた毒素が細胞にたまり、変性、壊死を起こし、機能低下を起こす。毒素は、環境汚染物質(排気ガス、ダイオキシン、環境ホルモンなど)、食品添加物、農薬、過酸化脂質、活性酸素、薬物のみならず、高たんぱく高脂肪食により代謝できない余剰栄養(悪玉コレステロール、中性脂肪など)も血液をドロドロにし、細胞を変性させる。たんぱく質の過剰摂取は、アトピー、アレルギー性疾患を起こす。高脂肪食により癌、心筋梗塞、脳梗塞、リウマチなどを促進する。
日本人の体質にあった医療の確立
現代医学が癌、生活習慣病、慢性病に対して行き詰っているのは、瘀血の概念が欠けているからである。瘀血の概念がないから、癌をはじめ慢性病が治らないのである。瘀血の解消は、血液の質の健全化と循環障害(シコリ)の解消である。瘀血によりシコリを作りやすいという日本人の体質に合った土壌の中で生まれたものに血液循環療法がある。血液循環療法は、指圧療法が生まれる以前の明治43年小山善太郎により創始された。手技の系譜は古来よりあるが、血液循環の促進という概念を導入したのは彼が最初である。血液循環療法は、手技により全身の血液循環を促進し、血管を含めたシコリを解消して、血液を健全なものに回復させ、難症治療に効果を上げてきた実績がある。瘀血の人は、腹部大動・静脈、大腸などに圧痛性硬化があり、これらを循環療法独自の手技で解消することが非常に効果的である。日本人には日本人にあった医療(日本医学)の復活が必要である。それは瘀血の概念を導入し、瘀血の解消や予防をする医療である。瘀血の治療はシコリの解消と血液の健全化である。それは、おなかのシコリの解消が鍵である。また、漢方薬療法、断食、少食(甲田式生菜食療法)も含めた食事療法、温冷浴、乾布摩擦(西式健康法)など日本人の体質に合った体に優しい医療の確立が必要である。                                  

 

 

 

(論文)
                   瘀血の現代的意義
                      血液と循環の健全化を図る一治験例
                                           大杉幸毅                                  
1,緒言
 東洋医学では「気、血、水」が体内を円滑に循環し、調和が取れていることで生命活動が健全に営まれているとする。病気は「気の病」であり、気という生命エネルギーが体内を円滑に循環せず、滞り、過不足を生じた状態であり、それにより血・水が滞り障害を生じた状態が瘀血である。瘀血は東洋医学独自の病理概念で、末梢循環障害を意味する仮想概念であり、病態は現代医学的には明確にされてない。
  近年わが国では、結核などの感染症が少なくなり、それに変わって生活習慣病が増加し、それに対する治療と予防が大きな問題になっている。生活習慣病の原因は、ストレス、過栄養、運動不足などの悪しき生活習慣の積み重ねと加齢的変化など複雑に絡み合い、近代西洋医学から発した特定病因的手法では対応できない。従って、生活習慣病に対する現代医療は対症的な治療法しかないのが現状である。その結果、わが国の国民医療費を大きく引き上げ国家財政を圧迫している。特に、日本人の死亡原因の第一位を占める悪性新生物に対する治療法は、癌腫の摘出などの外科的療法、抗がん剤などの薬物療法、放射線療法などの対症療法が主流であり、根治的治療法は確立されていない。
 しかしながら、これら生活習慣病に瘀血の概念を導入して解釈すれば、根本的な対策(治療法、予防法)が立てられると考える。そこで、瘀血とは何かを現代的に解釈し、瘀血の原因、瘀血と疾患の関係、瘀血と生活習慣病の背景、そして瘀血の解消法である血液と循環の健全化を図るひとつの方法として筆者自身の治験例を参考にして、その対策法を提案する。
2、従来の瘀血の概念
瘀血とは、停滞し変性した非生理的血液の意とされてきた。瘀血の診断基準は、眼輪部、顔面の色素沈着、皮膚の甲錯、口唇の暗赤色化、歯肉の暗赤色化、舌の紫暗色化、細絡、皮下溢血、手掌紅斑、臍傍圧痛、回盲部圧痛・抵抗、S状部圧痛・抵抗、季肋部圧痛・抵抗、痔疾、月経障害である。
瘀血の腹症
小腹満、小腹鞭満、小腹急結など下腹部に圧痛性の硬結(瘀血塊)が触診されるとされている。
瘀血の自覚症状
不眠、抑欝などの精神症状、顔面の発作的紅潮、多汗、冷え症、ほてり、頭痛、肩凝り、筋痛、腰痛、全身倦怠、口渇、腹部膨満感など不定愁訴である。
3、瘀血の現代的解釈
 瘀血を広義にかつ現代的に解釈すれば、循環(血流)障害と血液の不健全化(非生理化)の二つの要素が互いに関連しあい、発症因子或いは環境因子を形成していると考えられる。それらは血流の低下、停滞、途絶などがあり、その結果、代謝産物(老廃物)や毒素が排泄されず酸毒化し、汚血(古血、悪血)となる。また、過食、偏食など不適切な飲食物の摂取、ストレス、運動不足の結果、血液が不健全となり、あるいは自律神経系・内分泌系の乱れの結果、血流障害や血管障害を引き起こす。血液が悪化すれば細胞の代謝が低下し、内臓機能が低下し、体のさまざまな部位でトラブルが生じ症状を現す。更に瘀血が悪化すると器質的変化を生ずる。
4、循環障害
循環障害の原因は、レオロジー流体としての血液粘稠度(粘度)の変化と血管の機能的或いは器質的変化の二つの要素がある。
(1)血液粘稠度
 血液粘稠度は、赤血球凝集能、赤血球変形能、白血球変形能、血小板凝集能、血漿脂質濃度、血漿粘度、ヘマトクリット、ずり速度などの因子により影響を受ける。
(2)血管機能の変化
a,動脈血管の弾力性の変化
動脈血管の弾力性が低下すると血管抵抗が大きくなり平滑筋の収縮力の低下により動脈血流が低下する。血管の弾力性の低下の原因は、動脈硬化症、動脈炎などの病的変化と末梢循環障害(瘀血)による機能的硬化の二つの要素がある。瘀血の腹症である下腹部の硬結、或いは臍傍部の圧痛は総腸骨動・静脈血管の硬化である。(注1)
b,自律的循環系の不調
 自律神経系及び内分泌系の作用により血液循環が調節されている(神経性、液性調節)が、ストレスその他の影響でこれらの自律的調和が乱されると、末梢循環障害を起こす。
c,バイパス血管(グロミュー管)の不調
 毛細血管網の動脈側にバイパス血管があり、バイパス血管の作用により末梢側の循環調節がなされているが、この血管の不調により末梢循環障害が起こる。
d,血管内皮細胞の障害
 高血糖、活性酸素などにより内皮細胞が障害を受けると、NOの産生が低下し血管が収縮しやすく、また血小板の活性化により血栓が形成されやすくなる。
5、血液の不健全化
(1)血球成分
a,赤血球凝集能
血糖値、脂血値が高いと赤血球は凝集或いは連鎖状に集合する性質がある。筆者は位相差顕微鏡で筆者自身の血液像を観察して確認した。(写真1,2)(以下写真省略)
写真1:22歳男性の健康な血液像
写真2:筆者の血液像(この時体調が優れなかった。原因は前夜の過渡のアルコール摂取であった。)
また、糖尿病、アトピー性皮膚炎の患者で集合血液像が観察された。(写真3,4)
b,赤血球変形能
 高脂血、高血糖、動物性蛋白の過剰摂取、LDL の増加で変形能が低下することが報告されている。また、腸内環境の悪化、活性酸素による障害により細胞膜が変形し変形能が低下する。
c,その他の赤血球の変化(以下糖尿病患者で観察された)
有棘赤血球(スパイクセル)(写真5)
 腸内環境が悪化して悪玉菌が増加したときに観察される。
エチノサイト(写真6)
 水分不足のときに観察される。
変形赤血球(写真7)
 活性酸素に細胞膜が酸化され球形を保てなくなり変形する。
的状赤血球(ターゲットセル)(写真8)
 鉄分不足や肝機能低下のときに観察される。
d,白血球粘着能の上昇
 感染、アレルギーなど免疫反応の活性化により白血球が活性化すると粘着能が増加し微小循環の血流を阻害する。
e血小板凝固能の上昇
 精神的ストレスはアドレナリンなどの分泌により活性酸素の放出を増加し、血小板凝集、血液凝固能を促進する。寒冷刺激により微小循環を低下させ血小板凝固能を促進する。
(2)血漿成分
血漿脂質濃度(中性脂肪、コレステロール、レムナント様リポ蛋白コレステロール)の上昇、血漿粘度(血漿蛋白、フィブリノーゲン、マクログロビン)、へマトクリット値の上昇(水分不足、脱水)、ミネラル、ビタミン不足など影響を受ける。
6、瘀血の原因と生活習慣病の関係
血液は我々の生命を育む母なる海であり、我々を取り巻く外部環境に対する内部環境である。外部環境は自然環境と社会環境からなり、内部環境は両者の影響を受け変動する。内部環境は恒常性を保つ機能が作用し変動に対し常に復元力が働くが、外部からの影響と復元力との相対的な力関係のバランスが乱れた時に不調和となり、瘀血を生ずる。
瘀血とは血液が不健全となり循環障害を起こした状態である。血液が不健全とは、血液の汚れであり、老廃物の蓄積である。その大きな原因は、代謝能力を超えた過剰栄養である。糖の過剰摂取は代謝障害を起こし、糖尿病を発症し、組織破壊を起こす。過剰の中性脂肪は肝機能を低下させ、脂肪性肝炎を発症させる。また、内臓脂肪が蓄積し動脈硬化症、糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞、大腸癌など多くの生活習慣病の温床となる。(メタボリックシンドローム) 脂質の過剰摂取は高脂血症を起こし、動脈硬化を促進し、血液凝固や炎症、胆石症を起こし易くする。血管壁に溜まったLDL(低比重リポ蛋白など)を処理するため、マクロファージが大量に動員され、活性酸素が発生し、細胞膜を傷つけ老化を早め、動脈硬化症や癌の発症を促進する。動物性蛋白質の過剰摂取は、腸内の悪玉菌を増やして腐敗ガスが血液を汚し、アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患、痛風、癌、膠原病などの原因になる。インスタント・加工食品、菓子類などに偏ると、糖質や過酸化脂質の過剰摂取となり、ビタミン、ミネラル、酵素の不足をきたす。これらが瘀血の大きな原因であり、生活習慣病の発症因子である。
細胞の酸素欠乏
瘀血の状態が続くと、細胞への酸素供給が欠乏し、嫌気的解糖によりエネルギー代謝が円滑に行われず、中間代謝産物の乳酸などが作られ、これが組織を硬化させる。筋肉や内臓の組織が硬化すると、ますます末梢循環が低下し、組織の機能低下を起こし、慢性炎症の巣窟となったり、老化を早める。例えば、慢性関節リウマチなどの膠原病では、筋、靭帯など硬化した結合組織で慢性炎症が起こる。また、皮膚のしみや老人斑も瘀血の現れである。太い血管では、動脈壁の増殖によりアテローム硬化症を起こし、血圧が高くなり(本態性高血圧症)、全身の循環のアンバランスや低下を起こす。細胞の酸欠状態が続くと、胎児返り現象を起こし細胞が癌化するという、ワールブルグ(ノーベル生理学受賞者)の学説がある。(注2)
毒素の蓄積 
肝臓の解毒能力以上の医薬品、農薬、食品添加物などの化学物質やアルコールの過剰摂取或いはダイオキシン、アスベスト、窒素酸化物などに代表される大気汚染物質の吸入などにより毒素が体内に入ると、循環障害を起こしている末梢部に蓄積し、排除するため炎症反応を起こしたり、細胞の機能低下、壊死や発癌のリスクを高める。
7、瘀血と社会環境
日本は戦後、食生活の欧米化が進められ、日本人の遺伝子に合わない西洋栄養学による食生活改善運動と学校給食の推進により、動物性たんぱく質、脂肪、糖質の摂取量が増加し過剰栄養状態になった。最近の厚労省の調査では、メタボリックシンドロームの中高年男性は2人に1人であった。また高度経済成長と過激な競争社会によるストレスの増加、機械文明の発達による運動不足により、その結果、大腸癌、肺癌、乳癌、子宮癌、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、痛風、非アルコール性脂肪性肝炎などの生活習慣病やアトピー性疾患、花粉症、慢性関節リウマチ、膠原病などの免疫系疾患が急増した。
参考資料
図1 食肉年間摂取量の変化(FAOデータベース)
 経済発展を遂げ、経済が豊かになると食肉の消費量が伸びていく。日本、韓国、中国とも右肩上がりに上昇傾向である。
図2 穀物年間摂取量の変化(FAOデータベース)
 食肉消費が伸びているのに反して、日本、韓国、中国とも穀物の消費量は右肩下がりに減少傾向である。
図3a,3b,図4a,4b 悪性新生物(がん)罹患率の推移
男女とも増加傾向にある。
8、摂取カロリー制限(少食)の実際―筆者の湿疹治癒体験例
(1)半断食
02年3月下旬から朝食抜きの半断食を開始した。一年間で体重が4kg減少した。更に1ヶ月間、副食は野菜だけの食事療法(野菜の姿煮)を体験して体重が2kg減少した。しかし、気が緩んで普通食に戻り、間食をしたり晩酌や夕食を食べ過ぎて4㎏戻った。(体重68㎏-62㎏-66㎏、身長168cm)
(2)玄米菜食
03年から徐々に玄米菜食(緩やかな菜食主義)を開始した。
(3)白髪染めの染料による湿疹の悪化
05年9月、左足背中央部に湿疹が発症し、その引掻き傷が感染を起こし、さらに体幹に湿疹が拡がっていった。湿疹の原因は、以前に二度なったことがある白髪染液によるアレルギー性湿疹のようであった。前回は皮膚科医院を受診し、医師の指示に従って出されたステロイド剤の塗布が主な治療で、湿疹が出なくなるまで数ヶ月を要した。今回はステロイド剤を使用しないで根本的に治そうと考えていた。ところが、簡単に治らずどんどん悪化し、お正月の不摂生(食べ過ぎ、飲みすぎ、運動不足)で更に悪化していった。湿疹は、原発部の左足背全部、右足背中央部、体幹(側腹、背部)、両上腕内側、両大腿内側など全身的に拡がった。そこで、内科医院を受診し血液検査を受けた。総ビリルビン及び好酸球がやや高値だったが、IgE、炎症反応などの異常値は検出されなかった。抗生物質と抗アレルギー剤を出され、2週間ほど服用した以外は薬はのまなかった。湿疹部は外用塗布薬(亜鉛華軟膏)を使用した。
(4)摂生(禁酒、青汁、少食)と経過
経過から観察してみると、アルコールの過剰摂取と栄養過多が悪化の原因と判断されたので、06年1月下旬から禁酒し、更に青汁を夕食の代わりに摂ることにした。しかし、それだけでは空腹に耐えられなかったので、りんごと天然酵母パンを少々食べた。摂生を始めると徐々に湿疹が引いてきた。しかし、出張や法事、旅行などで外食、お付き合いで飲酒をする機会があるとまた悪化したが、摂生が続けられた5月の連休明けから効果が次第に現れ、湿疹が新たに出なくなり徐々に引いてきた。そして遂に7月上旬に完治した。
(5)食事の内容
朝食 なし。1日を通してミネラル水、柿の葉茶などの水分を十分摂取。
昼食 主食 玄米+古代米又は雑穀米(擂りゴマと天然塩を振りかける) 1,5椀。
味噌汁(自家製天然醸造味噌、天然だし、野菜、きのこ、ワカメ、豆腐、貝など)
副食 季節の野菜、豆、海藻、高野豆腐などの煮付け、おひたし又は酢の物、漬物・梅干、時々ちりめんじゃこ又は納豆など。魚は週1回程、肉は豚又は鶏肉の細切れが月1~2回野菜料理に入る程度。
夕食 青汁(3種類の有機葉物野菜とニンジン) コップ1杯、天然酵母パン2切れ、リンゴ。空腹に耐えられない時はせんべいなどを補った。
(6)食養以外の健康法
○1温冷浴
 西式健康法の本格的なものではなく、バスタブでよく温まってから上がる直前に冷水シャワーを全身にかける程度のものを2年前から実行。最初は水が冷たく感じられ、かなり気合をいれた。特に冬場は身を切るような冷たさがこたえ大変だった。しかし、1年くらい経って慣れてくると、気持ちよく感じられるようになった。
○2腹部の血液循環自己治療法
ほぼ毎朝、実行している。湿疹が発症してからは、肝臓、大腸、大動脈を重点的に自己治療して機能回復を図った。
○3塩浴
 数年前から入浴時、石鹸を使わないで、天然塩を溶かしたお湯で頭髪も含め全身を手のひらで摩擦して洗っている。一時中断したこともあったが、湿疹が出てから石鹸が使えないので再開した。これをやると皮膚がツルツルになり、皮下の血行が良くなるのか、暖かく感じるようになる。
(7)体調の変化(4ヶ月の結果)
○1体重が3㎏低下し63㎏になった。
○2体脂肪率が23%(軽肥満)から17%(標準)、筋肉率33%、BMIは22、基礎代謝1500kcalで体年齢は44歳(実年齢56歳)になった。
○3血圧が、以前肥満していた時は130台/90台まで上昇したが、腹部自己治療で正常値に下がり、半断食をやって1年で110/70台まで下がり、更に最近100/60台になった。脈拍は60台。
○4冷え症が改善し、足が冷えなくなった。血色が良くなった。
○5トイレ(小水)が近かったが、回数が減った。
○6下痢をしにくくなり、便通が良くなり、時に大量の排便があった。(臭いがなく黄色で水に浮くものが多くなる)
○7白髪染めが出来なくなり諦めていたが、最近白髪が黒くなり始めた。
(8)血液像の変化
 摂生をする前に半断食をやっていたが、昼食、夕食を食べ過ぎの傾向にあり、時々間食をしたり、毎日欠かさず晩酌をやっていたため、いつ観察しても血液像は完璧な状態ではなかった。(写真9)湿疹がひどいときは集合赤血球のことが多く、顆粒球が増加したり、血中にバクテリアが観察された。(写真10、11)
ところが、摂生をしてから5月中旬には、未だかつてない完璧な血液像となった。(写真12)その後も連続して定期的に観察しているが良好な状態である。
(9)加速度脈波計の測定値の変化
摂生をする以前は、測定値はいつもB波形であったが、完璧な血液像が観察されたときに、初めて最高のA波形になった。(資料:測定結果)これは末梢循環が非常に良好になったことを表す。
7、質の良い少食の効果
 以上、筆者の体験から次のことが結論として考えられる。
(1) 内部環境(血液)の浄化
瘀血の解消とは即ち血液の浄化である。過栄養や加工食品、農薬、食品添加物、過剰のアルコール、タバコなどの摂取、汚染された水や空気を取り込むことにより、私たちの内部環境は汚染され、さまざまな毒素が循環の悪い末梢の部位に蓄積している。少食にして空腹状態のときに、体内に蓄積した内臓脂肪などが分解され、末梢の循環が促進されることで、これらの毒素の排泄を促し、内部環境を浄化するものと考えられる。
(2) 末梢循環の促進
玄米菜食などの少食でビタミン・ミネラルをバランスよく摂取し、酵素力が増し、血液が健全化し、元気な赤血球が酸素を細胞に供給し二酸化炭素を排出する。それにより細胞の呼吸(解糖)が促進されエネルギー代謝が円滑に行われ、リモデリング(再生)が促進される。このことが自然治癒力を高めるものと考えられる。即ち、自然治癒力とは細胞のリモデリング(再生)力といえる。
8、結語
瘀血病の治療
 私の治病経験から言えることは、瘀血を解消し、血液と循環を健全にすれば、薬に頼ることなく生活習慣病の治療に対し非常に有効であるということである。血液と循環を健全にする方法は、断食、少食、青汁、生菜食(注3)、マクロビオテックなどの食事療法が柱である。次にストレス解消、意識の変革など心の持ち方及び生活習慣の見直しが重要である。瘀血の原因となる悪しき生活習慣に気づいたら、改善するように前向きに取り組むべきであり、それには自己の人生において、こころと体の健康を最優先に考えるべきである。そして、末梢循環を改善する手技療法(血液循環療法)と併用することでより大きな効果が期待できる。
瘀血の予防―省エネ型の無駄のない効率的な体を作る
過食・偏食は内臓脂肪、宿便を溜め、瘀血になり、無駄が多くエネルギー効率悪いばかりか、万病の元となり、医療費を押し上げ、生産性を低下させ、環境破壊を促進し、国家の大きな損失となる。それに対し、質の良い少食を実行すれば、エネルギー消費を最小に抑えて環境にやさしく、無駄のない効率的な体になり、健やかに老いることが約束され、医療費は大幅に軽減されることが期待できる。質の良い少食は、21世紀の省エネ・エコ型食生活として推奨されるべきである。
                      
(注1)論文「瘀血と腹部硬結との関係」大杉幸毅「血液循環療法症例集」参照
(注2)小山内博著「生活習慣病に克つ新常識」参照
(注3)甲田光雄著「生菜食ハンドブック」「生菜食健康法」参照

参考文献
「瘀血の基礎および微小循環・血液レオロジーとの関連」富山医科薬科大学 古田一史
「赤血球の微小循環とレオロジー」愛媛大学 前田信治
「赤血球変形能が微小循環に果たす役割と変形能の高感度・定量測定の意義」
日本医科大学 上坂伸宏
参考図書
甲田光雄著「少食の力」「奇跡が起こる半日断食」
三宮有壱著「血液に秘められた情報が命を救う」




(論説)

            自然治癒力に関する考察ー病気はなぜ治るのかー
                                                          大杉幸毅
緒言
 病気が治るのは生体の本来有する「自然治癒力」の働きによるとされている。しかし、自然治癒力が働いているはずなのに、全ての人の病気が治る訳ではない。治る人と治らない人がいる。同じように治療しても治らない人或いは治りにくい人がいるのは何故か?また病気はどのようなメカニズムで治るのだろうか。そして「自然治癒力」とは何か。また「自然治癒力」を高めるにはどうすればいいのか。筆者の手技療法(血液循環療法)による臨床体験から考察し、病気を早く治すための提言をした。
手技療法のこころ
手だけを用いて施術をする手技療法の歴史は古く、日本の神話伝説では少彦名が行ったと伝えられる。西洋ではイエス・キリストが、日本では空海(弘法大師)が手で病気を治した言い伝えがある。つまり手で病気を治すのは、「手当」という言葉の原点である。古代の人々が、痛いところに手を当てると良くなった、という経験則から始まったのではないかと想像される。現代でも母親が子供の痛む部位に手を当る。実は、ここに重要なことが二つある。第一は、施術する人の気持ちが重要な要素であるということである。即ち母親が子供に手を当てる時は、どんな気持ちだろうか?当然、痛みが早く消えて治るように、気持ちを込めて手を当るであろう。第二は子供が母親を信頼していることである。以上二つの事が治癒に関わる重要な要素ではないだろうか。
血液循環療法
血液循環療法は「指圧」の元になった手技療法で、「指圧」が生まれる以前の明治43年に小山善太郎が創見した治療法である。自身がリウマチになって半身不随になり、帝国大学病院にかっていたが治らず、聖書の中の「キリストが手で病気を治した」故事をヒントに自分でやってみたら効果があったという。「血液循環」の発想は高尾山にこもって断食修業した時に、大木にツタが絡まって枯れているのを見つけて、「人体も木の樹液と同じように血液の循環が遮断されると病気になる。手で循環を良くすればいいのではないか。」とひらめいて「血液循環療法」と命名し、同療法を実践、普及していった。当時の政友会総裁を務めた床次竹二郎内務大臣の胃癌の治療に効果を上げ、またその他の病気に効果を上げたことが「家庭に於ける実際的看護の秘訣」築田多吉著(通称「赤本」)に紹介されている。
筆者は小山の弟子の村上浩康に入門して同療法を学び次のような臨床体験をした。
心不全の症例
筆者の入門時、村上は85歳の高齢であった。ある朝、神棚に御水を上げてお祈りをしているときに倒れ、筆者が呼ばれて行くと、意識不明状態であった。脈はかすかに弱弱しく心房細動の状態であった。そこで直ちに心臓病の施術を試みた。しかし、反応がなく、そこで心窩部に更に深く指を入れていくと、奥の方で大動脈の拍動に触れた。大動脈の循環を促進する押圧法を繰り返し約5分間位続けたら、顔の表情が出てきて、間もなく意識が戻った。後遺症は全くなく回復した。その後も心筋梗塞の発作で意識不明状態の60歳代の男性と脳梗塞で意識不明の70歳代の女性を同治療法で回復させた症例がある。
胃癌の症例
患者 男性 58歳 診断名 胃癌(宮城県対がん協会にて細胞診で診断される)
腹部所見 胃部に握拳大の非常に硬い腫瘤、肝部に抵抗感を触診。
癌腫部の血液循環を促進する施術と全身の血液循環を促進する施術法を1週間毎日継続するも、胃部の腫瘤は一進一退で縮小軟化しなかったので、1日2回、朝と夕方施術を実施した。すると腫瘤が崩れて軟化縮小傾向が見られ1週間継続すると相当に軟化縮小したので、また1日1回に戻し約1カ月継続したら、胃部はほぼ正常に近い柔らかさにまで回復。最初患者は食欲が全くなく、青汁しか飲めなかったが、胃が軟化するに従い食欲も出てきて、食べても消化するようになっていった。更に1ヶ月間施術を継続して胃は正常な状態になり、胃の症状は消失。6か月後、対がん協会の検査で治癒を確認した。この患者は、以前子息が小児麻痺で重篤の時に村上に助けられた経験があり、同療法に全幅の信頼を寄せていた。
病気と薬物療法
病気の症状は、体が治そうとしている治癒反応である。例えば、風邪を引くと、のどが痛い、赤くはれる、鼻水が出る、せきが出る、熱が出るといった症状が出るが、これらは自然治癒が働いている反応である。感染が起こると肥満細胞からヒスタミン、セロニンが放出され、血管の透過性の亢進と血流の増加をもたらして発赤し、免疫細胞が血管から病変部に移動するのを助け、またこれらの物質により疼痛が起こる。鼻水や咳はウイルスや細菌毒素を排出し、発熱して免疫力を高める。これら一連の症状は自然治癒力が働いている反応である。しかし、これらの症状は不快なので、解熱剤、鎮痛剤、咳止め、抗ヒスタミン剤、抗生物質などを処方するが、これらの薬物に風邪を治す作用はない。症状を抑えるだけの対症療法である。ウイルスの繁殖や症状(毒素の排泄作用)を抑えているだけにすぎない。症状を抑える薬を長期間多用すればするほど益々治らない方向に抑えられる。普段薬を多用している人は、自然治癒力が低下をした状態で固められていて、副作用で別の症状が出るとまた薬で抑えるという悪循環に陥り薬が増えていく傾向にある。
血液循環促進による効果
血液循環療法は、患部つまり悪いところを直接手で血液の循環が良くなる手技を行う。患部は血液循環が悪くなっているので、患部の血液循環を良くすることが治癒力を高めるうえで重要な要素である。治癒とは細胞の再生であり、損傷、壊死した細胞が再生し、組織が修復される。それには酸素、栄養(ビタミン・ミネラル・抗酸化物質)、代謝酵素、免疫細胞、免疫物質の供給と細菌毒素など様々な毒素、免疫複合体、老廃物(代謝産物)などを排除し、更に全身的に血液循環を促進して内部環境のバランスを回復することが重要である。壊死した細胞が再生できない病的環境では、線維組織やCaなどの沈着、置換が起こり不可逆的な病変を来す。
こころ(潜在意識)に対する作用(気―癒しのメッセージ)
施術者は指先に意識を集中して施術する。この時患部は、「痛いけど気持ちいい」感覚が惹起され、患者の意識も患部に集中する。この心地よい感覚が潜在意識にスイッチ・オンして自然治癒力が働くように作用する。そして気という生命エネルギーはポテンシャルの高いほうから低い方に流れていくので、当然施術者の方の指先の方が患部より気のポテンシャルは高いので自然に患部に流入するのです。また、気はメッセージであり、「治してあげよう」「よくしてあげたい」という愛情あふれる気持ちが患者の潜在意識に作用し、治癒力にスイッチ・オンすると考えられる。母親が子供に手を当てるのと同じ気持ちである。手技療法は直接手で触れるので術者の意識が伝わりやすい。
運動器・神経系疾患と血液循環
腰痛、頭痛、五十肩、膝関節症、股関節症、坐骨神経痛、肋間神経痛、リウマチなどの運動器・神経系疾患の疼痛、機能障害の原因は、筋、靭帯などの軟部組織の硬化(コリ)に起因するものが多く、患部に血液循環を良くする手技を施し、酸素を供給すれば、硬化(コリ)が緩んで改善される。しかし、現在一般に行われている治療法は、痛みを抑える鎮痛療法しかなく、治らない方向に固めるだけにすぎない。運動器系の愁訴の原因がシコリであることを認識し、シコリを根本から緩めるには、シコリの血液循環を良くする方法しかない。
治りにくい人、治りやすい人
 同じように施術しても効果が早く出る人と効果が出るまでに時間のかかる人がある。治りにくい人は、血液の循環が悪い生活習慣または瘀血(おけつ)体質の人、過去に色々な対症療法を受けて自然治癒力が低下した人、もしくは過去に色々な治療法を受けたが治らなかった体験のある人、治療法や施術者を信じていない人、マイナス思考の人、自分で病気を治そうと努力しないで医者任せにする他力本願の人である。逆に、治りやすい人は血液循環の良い人、自分で自分の病気を治そうと努力する人、プラス思考の人、過去に色々な治療を受けていない人である。
血液循環を良くすることが自然治癒力を高める
血液循環が悪い人は、普段から大食い、甘いもの好き、アルコールや動物性脂肪の摂取過剰、夜更かし、また瘀血体質で自律神経のバランスが悪い、冷え性、低体温などの症状のある人で普段から不定愁訴に悩んでいる。こういう人は生活習慣や瘀血体質を改善することが治癒への近道である。改善するには質の良い少食、適度な運動、ストレス解消、早寝早起きで規則正しい生活、温冷浴などをすることで改善が期待される。質の良い少食は、ビタミン・ミネラルのバランスの良い食品の摂取、抗酸化物質を多く含むファイトケミカルの摂取、発酵食品や生食で酵素を補う、腸内有用菌の餌となるオリゴ糖の多く含まれた食物性繊維食を留意した少食が良い。糖質や脂肪の摂取過剰は血液をドロドロにして循環が低下する。逆に空腹状態の時は血液がサラサラで循環が良く、空腹状態を長く維持することで体に溜まった余分な不要物を消費する。
潜在意識
がんやその他の慢性病の場合は、特に患者さんの「潜在意識」が大きく影響する。「ガンは不治の病だ」という思いが潜在意識のなかにあり、「がんの恐怖」に負け不安や心配になると免疫力が低下する。「がんは治る病気だ」と信じている人は治る可能性が高い。必ず治ると信じている人、治るように自分で努力する人は治る。また、生きがい、やりがい、を持って毎日の仕事や生活に張りを持って生き、「イキイキ」生きることが治癒力を高めることになる。 Heaven  helps those who help themselves

                   



   「月刊綜合医学」診療雑話


               なぜ、国民医療費は毎年増えるのか?
                                                         大杉幸毅
 先日、膝が痛いと訴えられる64歳のやや肥満の男性が来院された。ゴルフ三昧の生活をしていて、3年前から突然痛くなったという。近くの整形外科医院に1年くらい通院して治療を受けたが治らなかった。そこで某有名国立大学病院を紹介されて受診した。血液検査、検尿、MRI,CTなど大掛かりな多くの検査をされた。その結果でた診断は「突発性膝骨壊死」というあまり聞いたことのないものだった。医師の説明の概略は次のようなものだった。
 この病気は原因不明で膝の骨に壊死が生じ、骨が荷重により陥没する比較的まれな病気であること。50歳以上の女性に多いく、男性の3倍ある病気であること。(当該患者さんは男性)現時点で有効な治療法がないこと。骨の圧潰が進行すると手術の必要があること。最近、骨粗しょう症の治療薬に効果があった報告があるので、その臨床試験に協力して欲しい。そこで仕方なく試験に参加して出された薬を服用し、定期的に検査を受けた。1年くらい継続したが肝心の膝痛は良くならなかった。そこで、「今度は手術しかない」といわれ、「膝の関節に金具を入れて補強し、関節のずれを正す手術をするが、それでもだめなら人工関節に取り換えるしかない。」と説明を受けた。本人は、膝はただ痛いだけで、手術するほどではないと考え、後で断った。その後、大学病院に行くのをやめ、整骨院や鍼灸院などで電気治療や鍼治療を受けていたが治らなかった。今回、健康雑誌に当院の記事が紹介され来院されたというわけだ。
痛みを訴える膝のお皿の内下方をつぶさに触圧診すると、圧痛性のシコリがあった。そこでこのシコリの部分の血液の循環を良くする手技を行うと痛みは消失した。治療後歩いてみてもらうと痛みは完全にとれていた。正座も支障なくできる。どう考えても膝関節の骨が壊死しているとは思われない。1回の治療で3年間悩んだ膝痛が良くなった。しかも大学病院で「突発性膝骨壊死」と診断され、1年間の投薬で治らず、手術しかないと言われた患者さんである。一体、大学病院は何をやっているのか?莫大な研究費、設備費、人件費を使ってこの程度である。これでは全く医療費の無駄遣いである。他に治る方法があるのも知らずに人工関節の手術をされている患者さんは多くいるのではないだろうか。このような例は時々経験する。先日みえられた歯科医師は片側の股関節を人工関節に置換手術を受けられていて、今度は他方の股関節が痛くなり来院された。治療をして痛みが軽減してきたので「焦って手術をしなければよかった」と嘆いておられた。
腰痛、膝痛、五十肩、股関節痛、坐骨神経痛などの整形外科系疾患の場合、愁訴の多くの原因は骨の異常ではなく、関節を支える筋肉や靭帯などの軟部組織の硬化にあることが多い。いわゆるシコリである。老化や長年の疲労により退行性変化を起こす。このコリを解消するには、血液の循環を良くする以外に方法がない。このことに現代医学は気づいていないので、的外れな効果のない治療を延々と継続し、医療費を無駄遣いしているのである。患者さんも保険診療で安価にかかれるのでいつまでも通院してこじらすことになる。
現代医療は「研究のための研究」「医療のための医療」といったおかしな方向に行っているように思える。医療がビジネス化し、「命より経済優先」になりクスリと手術で処置され医原病を作る現代医療を改革しなければならない。そして、病気はクスリではなく、「食べ物」の内容と食べ方で治るのだという意識改革が必要である。
国民医療費を軽減するためには、緊急に医療保険制度も含め抜本的に医療制度を改革しなければ、将来に大きな負債を残すことになる。